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自転車事故への危機感が高まるなか、関心を集めているのが、低価格で手軽に加入できる「自転車保険」だ。自転車保険とはどのようなものなのか。 |
ここ数年の自転車ブームが、最近になってさらに加熱している。自転車産業振興協会の統計によると、自転車の2011年4〜6月の国内向出荷台数(生産数 量+輸入数量)は前年同期比で118%と、大きく増加。「地震当日は帰宅手段として自転車を購入する人が大勢いたが、その後も節電の影響で電車の運休が続 き、通勤に自転車を利用する人が増えた。自転車通勤をしたことでその利便性に気づき、そのまま自転車に乗り続けている人が多いのではないか」(自転車産業 振興協会)。
【詳細画像または表】 一方、交通事故の件数はこの10年間で年間22万件も減少しているが、自転車事故はそれほど減っていない(表1)。そのため、自転車事故が交通事故全体 に占める割合は増加傾向にある。さらに「自転車が第一当事者(事故における過失の重い者、過失が同程度の場合には負傷程度が軽い者)となった割合」に限定 すると、この10年間で2.5%から15.6%と、実に6倍以上も増えている。こうした事態から警察庁は2011年10月25日、自転車をあらためて「車 両」として定義し、「自転車は車道を走ること」などの通達を出した。
自転車事故とひとくちに言っても、歩行中に自転車にぶつかる場合もあれば、自分が自転車を運転中に事故を起こして加害者となる場合もある。民事訴訟では 死亡事故を起こした自転車の運転者に5000万円超の高額賠償を命じる判決もあり、これは支払い能力のない未成年者とて例外ではない(表2)。
こうした自転車事故への危機感が高まるなか関心を集めているのが、低価格で手軽に加入できる「自転車保険」だ。
自動車保険などの「個人賠償責任保険」の特約で対応できる場合も
日本損害保険協会によると、自転車事故に備えるには「傷害保険」と「個人賠償責任保険」の2つは必要という。「傷害保険」とは、自転車に乗っていたり歩 行中に自転車にぶつかったりした場合の自分のケガに備える保険。「個人賠償責任保険」とは自転車事故で他人にケガをさせたり、物を壊して法律上の賠償責任 が発生したりといった場合の支払いに備える保険だ。現在、自転車向けの保険として販売されている保険商品は、この2つがセットになっていることが多い。
注意したいのは、「個人賠償責任保険」は自動車保険や火災保険、傷害保険などの特約として用意されていることが多いこと。自分が加入している損害保険にすでに含まれていることもあるので、契約内容をチェックしたほうがいいだろう。
加入している損害保険に「個人賠償責任保険」が付いていなかった場合には、
a.今入っている保険商品(自動車保険、火災保険、傷害保険など)に「個人賠償責任保険」の特約をプラスするb.新たに自転車向けの保険に加入するという2つの選択肢がある。
aを選んだ場合、例えば自動車を手放すと同時に自転車の補償も消えてしまうといった不便さがある。一方、bを選んだ場合には保険商品によって補償される 額に幅があり、また、通常1年契約となるので注意が必要。どちらがいいかは検討が必要だが、「ほかの保険契約がなく、通勤や通学、趣味で自転車に乗る機会 が多いなら、自転車保険を新たに契約することを検討するのがよいでしょう」(社団法人日本損害保険協会)とのことだ。
売れている「自転車保険」の中身とその理由
自転車保険とはどのようなものだろうか。
実は以前から大手保険会社は自転車保険を販売していた。しかし、補償額が高額になったり自転車の盗難件数が多かったりして低額の保険料では採算がとれないなどといった理由から、販売中止が相次いでいた。
しかし最近になって自転車ユーザーの保険加入意識が高まっていることから、各社は自転車保険の見直しを開始。チューリッヒ保険では自転車事故への補償を 強調するウェブサイトを立ち上げたところ、従来からあった商品「スーパー傷害保険Lite」への申し込みが激増したという。また2011年5月に開業した モバイル専業の「au損保」は、開業記念として期間限定で発売した「100円自転車プラン」が好評なことから、定番商品化を決定した。
「スーパー傷害保険Lite」(チューリッヒ保険)
チューリッヒ保険会社(チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド 日本支店)は、約140年の歴史と世界170カ国以上のサービス網を持つチューリッヒ・ファイナンシャル・サービシズの日本拠点。補償範囲を交通事故等に 絞りこんで一般的な傷害保険よりも低額な保険料にし、相手方への賠償責任特約も手ごろな料金でセットできる「スーパー傷害保険Lite」を2000年から 販売している。
この保険、本来は自転車事故だけではなく、自動車や電車に搭乗中の事故、駅構内でのケガにも対応するもの。だが2011年4月以降、震災による自転車の ニーズの高まりなどを受け、自転車によるけがや賠償責任にも対応することをアピールする専用のウェブサイトを立ち上げて積極的に顧客のニーズを喚起した。
その結果、「以前からじわじわ需要は伸びていたが、前年同月比6〜7倍という新規契約を獲得できた」(同社)という。以前は「ファミリータイプ」と 「パーソナルタイプ」の比率はほぼ同じかやや「パーソナルタイプ」が少ないくらいだったが、全体の契約件数が飛躍的に伸びた5月以降は「パーソナルタイ プ」が6割前後という高い割合で推移している。「かつて保険といえば、一家の大黒柱が家族のために加入する生命保険のイメージが強かった。しかし高齢化が 進むなど社会情勢の変化により、病気から自分の身を守るための医療保険にも関心が高まった。さらに現在は、より自分に合ったシンプルな補償を求め、傷害保 険に加入する人が増えている」(同社)。
ベーシックプランの「パーソナルタイプ」であれば、月額600円(年払いだと6450円)で死亡・後遺障害保険金額1000万円、入院保険金日額 3000円(最長365日)に加え、手術保険金(手術の種類により、入院保険金日額の10倍〜40倍)が補償される。さらに月額80円(年払いだと850 円)の「賠償責任危険補償特約」を付ければ、事故の賠償金額が5000万円まで補償される。
一方、月々の保険料が1340円(年払いだと1万4520円)の「ファミリータイプ」なら、パーソナルタイプと同額の月額80円で家族全員の賠償責任を カバーできる。現在、インターネットからの「スーパー傷害保険Lite」加入者の約9割がこの「賠償責任危険補償特約」を付けているという。
「100円 自転車プラン」(au損害保険)
「au損害保険」は、あいおい損保(現・あいおいニッセイ同和損保)とKDDIが共同で設立し、2011年5月25日からサービスを開始。3300万人 というau携帯電話の顧客をターゲットにした損害保険会社で、携帯電話で契約から保険金請求までの手続きができ、保険料も携帯電話の通話料と一緒に支払う ことができる。これまで保険に興味が薄かった若者や女性をターゲットに、「アプリ感覚で買える損害保険」を展開しているという。
なかでもヒットしているのが、「100円 自転車プラン」(「自転車搭乗中等のみ保障特約付スタンダード傷害保険」)だ。もともとの商品は、開業記念と して2011年5月から期間限定で販売された「開業記念 自転車プラン」で、月々100円の保険料で個人賠償責任額は最大1000万円まで、通院・入院なども補償されることから、人気となった。あまりの反響の大 きさに、8月までの販売期間を10月末までに延長した。
さらに11月1日からは「月々100円の保険料」「個人賠償責任は最大1000万円」の補償はそのままに、死亡・後遺障害補償を200万円から450万 円に増額して「100円 自転車プラン」として通常商品にラインアップした。ただしこのプランだと入院・通院は対象外。入院・通院やさらに高額な賠償事故 に備えたい人には、月々280円からの「自転車ワイドプラン」3タイプが用意されている。最近ではこの「自転車ワイドプラン」の加入者数も急激に伸びてい るそうだ。
また10月からはauユーザーからも要望の多かったPCからの申し込みも可能となり、これにより通信会社を問わずに保険加入できることとなった(ただしPCからの申し込みによる保険料は年払いのみ)。
同社によると、「月額100円という保険料は携帯電話利用者向けに特化した保険会社だから実現できた」という。保険商品で最も多くのコストがかかるの が、事務手続きなどのオペレーションコスト。しかし携帯電話からの契約申し込み、保険証券発行、通話料といっしょの保険料引き落としなど、すべてのオペ レーションにかかるコストを大幅にカットした。「こうしたシステム構築は商品特性・規模などもあり、従来の保険会社では無理。新会社の設立がどうしても必 要だった」(au損保の福岡孝夫執行役員営業企画部長)。
既存の保険会社では男性の加入者が圧倒的に多く、年齢も40代から50代がボリュームゾーン。「従来の損保商品は若い年代との接点がなく、これまで損保 会社としてはほぼ手付かずのフィールドだった」(同氏)というが、100円 自転車プラン加入者の内訳は携帯電話保有者の男女・年齢分布とほぼ一致。契約 者の約半数が20〜30歳代の若者であり、女性も全体の3分の1を占める。なかでも子どものために加入する母親が多いという。「携帯」と「自転車」という 若年層に身近なキーワードで、新たな顧客層を開拓できたといえそうだ。
また、テレビなどで取り上げられると真夜中でも同社のサイトへのアクセスが殺到し、契約数が増えるのもモバイルならでは特徴。「今後も保険に初めて触れる若い人をターゲットの中心にし、スマートフォン時代に合ったスマートな保険を提案していきたい」(同氏)。
手軽で特典も多い「自動加入システム」
一方、保険に入るのに抵抗を感じる人に向いているのが、自転車関係団体の自転車保険自動加入システムを利用すること。その団体が損害保険会社と団体契約 をしているため、個々に保険会社と契約する必要がない。最も有名なのが、自転車の整備・点検をすることで自動的に自転車保険に加入できる「TSマーク」。 手軽なことから利用者が増えていて、シールの枚数は前年から4割増だという。
「TSマーク付帯保険」(日本交通管理技術協会)
「TS」とは、「Traffic(交通)」「Safety(安全)」の頭文字。「TSマーク」とは自転車安全整備士が自転車を点検し、安全であると認め た場合に貼られるシール。傷害保険と賠償責任保険が付帯している。またこの保険は個人ではなく自転車に付帯しているので、自転車の所有者に限らず、その自 転車に乗車している家族や友人等も対象となる。
通常、点検・整備とTSマークの貼り付けには1000円〜2000円程度の料金がかかる。この料金はあくまでも自転車の点検、整備を受ける料金であり、 点検、整備を受けずにTSマークだけを貼ることはできない。このTSマークには赤色と青色があり、補償内容が異なる。青色より赤色のほうが補償額が高額 で、一般の店舗で整備を受けると赤色が貼られることが多い。
「JCA」(日本サイクリング協会)
自転車を交通のインフラとするための研究・提言を行っている団体。入会し年会費4000円を払うと、「JCA自転車総合保険」に自動的に加入となる(会 則による制限あり)。登録会員数は6万人弱(継続して2011年度会費支払い中の会員数は2万人)。活動を休止している会員も多いが、最近になって復活す る会員が増えているという。「保険のみを目的とするのではなく、JCAの活動等を支援、賛助する人であること」が入会条件となる。
補償の内容は賠償責任補償が最大5000万円、本人や他人に後遺症が残ったり死亡に至ったりした場合の傷害補償が213万円。入院補償が付いていないが、希望により日額4000円(入院初日から1000日間)の保険に追加で入ることもできる。
「TEAM KEEP LEFT」プロジェクト
毎年11月に開催される日本最大のスポーツ自転車展示&試乗会「CYCLE MODE International」を主催するCYCLE MODE事務局が、「NPO法人自転車活用推進研究会」との協業で2009年に発足した活動組織。会員数は2000人弱。「自転車は車道の左側を走ろう (TEAM KEEP LEFT)」というシンプルで重要なルールをネーミングに掲げ、正しい交通ルールの普及とマナーの向上、そして自転車保険加入の必要性を多くのサイクリス トに訴求している。
会員になると自動的に自転車保険に加入できる。入会期間は毎年4月1日からの1年間で、年会費は4000円。補償内容は、死亡保険金、および後遺障害保険金の限度額がそれぞれ360万円。賠償責任保険の限度額が1億円。
保険は「まさかの時の備え」でしかない
しかし「保険に入っていれば事故を起こしても安心」というわけではない。2011年11月28日には大阪地裁で、自転車で国道を横断して死亡事故を誘発 した男性に、重過失致死罪による実刑判決が下されている。実は「保険に加入している安心感から来ると思われる事故も多いように見受けられる」(JCA保険 担当者)という声もある。「事故から身を守るには乗用者のマナー意識の向上と、法整備、道路整備が必要不可欠。保険は不可抗力の場合に身を守る最終手段で しかない」(同)。「保険は“安心を買う”精神でまさかの時の備えとして必要だが、自転車が他人を傷つける事故を起こすこともあることをしっかりと理解し て欲しい」(日本損害保険協会)という。
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